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活動事例

肝CoインタビューVo.11

マスター肝Co

「地域住民と医療をつなぐ」
─ 融合した想いが薬局を地域連携の“ハブ”に変える─
肝炎医療コーディネーター・
薬局薬剤師 西垣さん&桝井さんの軌跡

薬局薬剤師 桝井亮佑さん
薬局薬剤師 西垣賢さん

同じ薬局グループに所属しながら、全く異なるアプローチで肝炎医療に関わり始めた二人の薬剤師がいる。
自ら道を切り拓くリーダーと、その背中に寄り添い実務を支えるフォロワー。二人の異なる個性が融合した時、薬局は単なる「薬の受け渡し場所」から、地域住民と医療をつなぐ力強いチームへと変わった。

第一章:異なる原点 ─ 「拾い上げ」の使命感と、「くっつく」勇気

リーダーである西垣さんの原点は、かつて製薬会社のMRとして働いていた時代にある。当時は副作用の強いインターフェロン治療が主流で、治療のつらさから脱落する患者を多く見てきた。その後、調剤薬局へ転職し、ある市民公開講座で「薬局の検査値データ(FIB-4 indexなど)を使えば、肝疾患の早期発見ができる」と知る。「薬局だからこそ救える命がある」。過去の経験と新たな知識が結びつき、隠れた患者を“拾い上げる”使命感が芽生えた。
一方、桝井さんの原点は学生時代の病院実習だった。C型肝炎の画期的な新薬(テラビックなど)が登場した時期で、「治らないと諦めていた患者に、明るい未来を見せられること」にやりがいを感じていた。しかし、桝井さん自身は「自分から企画してグイグイ引っ張るタイプではない」と自己分析する。地域に貢献したい気持ちはあっても、一人で何をすればいいか分からず空回りしていた。そんな彼を動かしたのは、すでに先頭を走っていた西垣さんの存在だった。
「自分発信は苦手でも、すでに走っている人の活動に『乗っかる(くっつく)』ことならできる」。そう考えた桝井さんは、西垣さんの活動に合流し、肝Coとしての第一歩を踏み出した。

第二章:手探りの現場 ─ マイナ保険証の活用と「絶妙な距離感」

企画力と牽引力を持つ西垣さんと、それに賛同し現場で着実に実践する桝井さん。

二人の個性が融合したチームは、現在、マイナ保険証の「特定健診情報」を活用した拾い上げに力を入れている。患者の同意を得て情報を確認し、ALT値(肝機能)が30を超えている患者に対して受診を促す声かけを行うのだ。しかし、ここには薬局ならではの配慮と、緻密な「距離感」の調整がある。

患者に対する距離感

初診の患者や、まだ信頼関係ができていない患者に、いきなり「検査値が高いですね」とは言わない。顔なじみの患者との日常会話の延長線上で「健康診断は受けていますか?」「奈良県ではALT30以上は受診を勧めているんですよ(奈良宣言)」と自然に切り出す。マイナンバーで見える情報を“前面に出しすぎない”配慮が、患者に不信感を与えないコツだ。

門前薬局とクリニック(医療機関)との距離感と根回し

さらに重要なのが、「門前の医師との関わり方」だ。内科クリニックの門前薬局などで、薬剤師が独自に「ALTが30以上だから受診してください」と患者に伝えると、患者は「先生には何も言われていないのに、薬局で言われた」と混乱してしまう。それが原因で、医師から「勝手なことをするな」とトラブルになるリスクもあるのだ。そのため、活動を始める際は、事前に門前の医師へ「薬局でこういう啓発活動をしています」と説明し、理解を得ておくことが不可欠となる。
実際に、別の店舗で糖尿病の専門医から「どういうことだ」と少し怒り気味に疑問を持たれたケースがあった。その際、管理薬剤師からSOSを受けた西垣さんは、すぐに行政とタイアップした正当な活動であることを丁寧に説明する手紙を作成し、無事に医師の理解を得ることができた。
患者との対話を大切にする一方で、医療機関との関係性を保つように、裏できっちりと筋を通す。この細やかな「連携と根回し」があってこそ、薬局発の拾い上げは地域に定着していくのだ。

第三章:会社の背中 ─ 「夢を語れる」関西メディコの社風

二人の活動を強力に後押ししているのが、所属する株式会社関西メディコ(サン薬局)の社風だ。この会社では、管理薬剤師や一般薬剤師が社長と直接面談し、「こんなことをやってみたい」と率直に提案できる風土がある。肝疾患の活動も、トップダウンで「やらされている」のではなく、現場が自ら手を挙げたものだ。

そして、西垣さんの活動を知った社長自らが、「西垣さんがこういう活動をしています。興味のある人はいませんか?」と全社員に一斉メールで仲間を募ってくれたのだ。このメールが、桝井さんのような「何かやりたいけれど迷っている」薬剤師の背中を押す大きなきっかけとなった。
さらに、学会発表や地域での活動は報告書としてまとめられ、会社のホームページで全社に共有される。「あの店舗が頑張っているなら、自分もやってみよう」。そんな前向きな循環が生まれ、今では社内に10名弱の肝Coが誕生している。

第四章:専門医が拓いた地域連携の道 ─ 震える指で送った一通の「ラブレター」

企画力と牽引力を持つ西垣さんと、現場で着実に実践する桝井さん、そして二人を後押しする会社。これだけでも十分素晴らしいチームだが、サン薬局の活動を「地域全体を巻き込むうねり」へと昇華させた最大の鍵は、肝臓専門医・赤羽たけみ先生(宇陀市立病院 院長)との出会いだった。

震える指で押した送信ボタン

その始まりは2017年。西垣さんが市民公開講座に参加した時のことだ。そこで当時、奈良県立医科大学肝疾患相談センターに所属していた赤羽先生の講演を聞き、「薬局だからこそ救える命がある」と確信した西垣さんだったが、高い壁を感じていた。「薬局が勝手に検査値を気にして、受診を勧めていいのか?」「医師や行政から『余計なことをするな』と怒られるのではないか」。突破口を開くためには、専門医の後ろ盾が必要だった。
西垣さんは、講座で知った赤羽先生のメールアドレスに連絡をとることを決意する。「正直、怖かったです。何度も文面を見直し、送信ボタンを押す指が震えるほど勇気がいりました。でも、この一歩を踏み出さなければ何も始まらないと思って、えいや!と送ったんです」。その一通の“ラブレター”が、赤羽先生の心を動かした。「ぜひやりましょう」。その返信から、孤独な挑戦は地域を巻き込むチームの活動へと変わっていった。

専門医が引き受けた「露払い」の役割

現在、サン薬局では奈良県内の各市町村といった行政機関とタイアップし、店舗の生活圏に合わせた特定健診や肝炎ウイルス検査の案内を行っている。しかし、一介の民間薬局がいきなり市役所や保健所へ協力を申し出ても、門前払いを食らったり、営利目的の「不審者」として警戒されたりするのが現実だ。
事実、過去には他地域の薬局が単独で啓発に走り、保健所からクレームが入った事例もあったという。

ここで絶大な力を発揮したのが、赤羽先生の存在だった。赤羽先生は日頃から各市町村へ出前講座に出向き、地域の保健師たちと顔の見える関係を築いていた。西垣さんたちが行政へ挨拶に行く前、赤羽先生は必ず担当者へ事前に連絡を入れてくれたのだ。 「今度、サン薬局の西垣さんという薬剤師が伺うので、よろしくお願いします。」と。

「誰とやっているか」が地域をつなぐ

この露払いに相当する一本の電話が持つ意味は計り知れない。「専門医のお墨付き」があるだけで、薬局は「怪しい業者」から「地域医療の確かなパートナー」へと劇的に変わったのだ。
大学病院の専門医が、地域の薬局のために行政への橋渡し役まで引き受けて共に動く。これは全国的に見ても非常に稀であり、理想的な地域連携のモデルと言える。
「気軽に相談できる専門医がいる安心感があるからこそ、私たちは現場で堂々と患者さんに声をかけられるんです」と西垣さんは語る。

肝炎医療コーディネーターにとって、理解ある専門医は「守護神」だ。薬局という地域に密着した「出発」と、確定診断・治療を担う専門医という「ゴール」、そしてそれをつなぐ行政。一通のメールから始まったこの強固な連携が、今日も奈良県の患者たちを静かに、そして確実に守り続けている。

若い世代へのメッセージ

【西垣さん】

最初の一通のメール、最初の一言。その一歩目は本当に怖いです。でも、その勇気が専門医を動かし、会社を動かしました。迷っているなら、まずは一歩を踏み出してみてください。必ず助けてくれる仲間が見つかります。

【桝井さん】

一人で全部やらなくていいんです。企画が得意な人がいれば、実務が得意な人もいる。僕のように『誰かの活動にくっつく』ことから始めてもいい。頼れるものは会社でも専門医でも頼って、無理なく続けていくことが大切です。

異なる個性を持つ二人の薬剤師、背中を押す会社、そして道を拓く専門医。この見事な融合が、今日も地域の「医療の出発点」を力強く守り続けている。

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