肝CoインタビューVo.12

「仲間がつなぐ、継続看護の道」
─ 「ゴミ回収」から始まった最強チーム
無我夢中で患者を守り抜く継続看護の道─
宇陀市立病院
肝炎医療コーディネーターたちの軌跡
宇陀市立病院
「どこまでも追います」。
宇陀市立病院の肝炎医療コーディネーター(以下、肝Co)チームは、肝炎ウイルス検査の陽性が疑われる患者を見つけると、文字通り院内を駆け回る。特別なシステムがあるわけではない。あるのは、「目の前の患者さんを救いたい」という純粋な思いと、職種の垣根を越えて助け合う「仲間」の存在だ。彼女らの活動は、決して肩肘張った特別なものではない。身近な絆から始まり、患者の人生に寄り添い続ける「継続看護」の体現だった。
第一章:始まりは「運命のゴミ回収」から
現在、宇陀市立病院には、医師、看護師、臨床検査技師、管理栄養士、薬剤師、理学療法士、医師事務作業補助者など、多職種が連携する強固な肝炎チームが存在する。しかし、その結成のきっかけは、実にユニークなものだった。当時、検査技師の藤原さんが肝Coの研修を受講し、赴任してきた肝臓専門医とともに「隠れた陽性者の拾い上げ」を始めようと計画していた。しかし、臨床検査技師一人では患者に直接アプローチすることが難しい。誰か一緒に動いてくれる看護師はいないか—そう悩んでいた診察室に、たまたまゴミ回収に入ってきたのが、看護師の岡田さんだった。
「私、ただゴミ回収をしてただけなんです。そうしたら『ちょっと座って』と言われて、肝炎チームにスカウトされました(笑)」。
最初は何のチームかもわからないまま引き受けた岡田さんだったが、持ち前の明るさと行動力で、次々と「いつもの仲間」を巻き込んでいった。「身近な仲良しから始める。いつも一緒にやっている人からだと動きやすいんです」
「人類皆兄弟」の精神で、顔の見える関係性を活かして他部署に協力を仰ぎ、気がつけば最強のアットホームチームが誕生していた。
第二章:お酒好きの患者さんへ。「みんなでみているからね」の伴走
チームの「患者さんのために」という信念を象徴するエピソードがある。
ある76歳の男性患者さん。お酒が大好きだった彼は、C型肝炎の治療を勧められても「ウイルスが暴れないなら大丈夫だ」と頑なに拒否し続けていた。井上さんたちは彼の外来の度に「絶対に会いに来るから!」と自ら出向き、面談を重ねた。患者さんの思いを傾聴し、徐々に治療を拒む理由が、お酒やお金の不安であることが分かった。治療費助成制度を説明し、少しずつ減酒の約束を取り付けていった。
「毎日お酒を飲んでいた人に、いきなり『やめろ』と言っても難しい。だから、少しずつ減らしていく過程を応援しました。」井上さんは自分がいない時も見守れるよう、彼にほかの肝Coのメンバーを紹介したり、手書きの応援メッセージカードを渡し、「みんなで頑張りをちゃんと見てるからね」と言葉にして伝えた。すると、最初は拒絶していた男性が、病院の廊下で井上さんを見つけると「トントン」と背中をたたいて声をかけるまでに関係性が深まった。無事に治療が完遂した日、井上さんたちは彼に拍手を送って喜び合ったという。
第三章:チームで守る「日常の延長線」の支援
もう一つ、認知症のある患者さんの事例がある。 彼女はC型肝炎の治療薬はおろか、高血圧の薬すら飲めない状態だった。短期記憶がなく、服薬をめぐって夫と喧嘩になってしまう。夫が疲れ果てていくのを見て、井上さんたちは「なんとかご主人を守りたい」と考えた。
そこでチームが取った行動は、看護師たちの顔写真をプリントし、「お薬ちゃんと飲むって約束したよね」というメッセージを添えて冷蔵庫に貼ることだった。「薬を飲めって言うのは、ご主人のせいではなくて、看護師の私たちのせいにしていいんですよ!」と、ご主人の負担を減らす工夫をしたのだ。さらに、ICT(宇陀ケアネット)を活用し、地域のケアマネジャーや訪問看護師とも連携して服薬をサポートした。
こうした柔軟なアイデアは、特別な会議室で生まれるわけではない。「たまたま廊下を通りかかったときに、『あの患者さんにどう対応する?』『こうしようか』と数分で決まるんです。」日常の延長線上にあるコミュニケーションが、患者を救う最大の武器になっている。
第四章:患者を守るためには「ブチッ!」と、継続看護の魂
宇陀市立病院の肝Co活動の根底には、「継続看護」という強い哲学がある。治療が終わったらそれで縁が切れるわけではない。SVR(ウイルス排除)後も定期検査に通ってもらい、その後の人生も見守り続けるのだ。
前述のお酒好きだった男性が、治療後にいつもの歯科医院へ行ったときのこと。マイナンバーカードを提示したところ、過去の履歴から「C型肝炎だから抜歯できない」と、いわれのない差別的な対応を受けてしまった。 その話を外来で聞いた井上さんは、頭の中で「ブチッ」と何かが切れる音がしたという。
「あんなに頑張って治療したのに、なんでそんな悲しい思いをさせられなあかんの!」。
彼女は患者に「ちょっと待ってて!」と伝え、すぐに肝臓専門医のもとへ走り、ウイルスが検出されていないことを証明する書類をもらった。「このモヤモヤした気持ちのまま、患者さんに家に帰ってほしくなかった」。
書類を持って歯科医院へ説明に行き、無事に誤解は解けた。医療者として、患者が受ける理不尽な偏見に対して「自分のことのように怒り、即座に行動する」。これこそが、宇陀のチームが実践する「継続看護」の真髄である。
未来へ ─ 特別なことではなく、仲間がつなぐ道
最初は「ゴミ回収」の偶然から始まった。けれど、身近な仲間に声をかけ、廊下で立ち話し、患者と一緒に笑い、時に本気で怒る。その一つひとつの「特別なことではない日常の関わり」が連鎖し、地域や患者を包み込む大きなチームへと成長した。
肝炎医療コーディネーターの道は、決して孤独なものではない。 「1人ぼっちなら、まずは身近な仲良しから増やせばいい」。
仲間を信じ、患者を思いやる。その温かい気持ちのバトンこそが、今日も宇陀の地で命と笑顔をつなぎ続けている。




