肝CoインタビューVo.13

「推し」と「仲間」と「組織力」
─ 診療報酬ゼロの壁を越える、
宇陀市立病院・肝炎最強チームが輝く理由─
宇陀市立病院
全国の肝炎医療コーディネーター(以下、肝Co)が抱える共通の悩みがある。「活動が直接的に診療報酬として評価されない」「他職種の協力が得られず、一人で孤立してしまう」という壁だ。しかし、奈良県の宇陀市立病院は違う。医師、看護師、検査技師、管理栄養士、薬剤師、理学療法士、医師事務作業補助者など多職種が連携し、誰もが笑顔で、驚くほど高いモチベーションを持ち続けて院内を駆け回っている。
インタビュー中も、彼女らの間には絶えず笑い声が響いていた。「やらされている」悲壮感は微塵もない。なぜ、この病院の肝Co活動はこれほどうまくいっているのか?
その裏には、「患者さんのため」という純粋な思いと、それを強力に後押しする「推し」の存在、そして何より「自分たちが一番活動を楽しんでいる」という最強の真髄があった。
第一章:肝臓専門医は「推し」。遠慮なく言えるフラットな関係性
宇陀市立病院の肝炎チームの原動力、それは「医師との距離の異常な近さ」にある。 通常、他職種が医師に意見を言うのはハードルが高い。しかし、ここの看護師や臨床検査技師たちは、院長でもあり、肝臓専門医である赤羽たけみ先生のことを、愛情を込めて「大ファン」「私たちの推し」と呼ぶ。
「推しがうちの病院に来た!」「皆が喜ぶことが起こるぞ!」と沸き立ったというエピソードからもわかるように、トップダウンの指示で動かされているのではなく、尊敬する専門医と一緒に活動できること自体が、スタッフの喜びになっているのだ。
このフラットな関係性は、他科の医師へのアプローチにも生きている。 ウイルス性肝炎の検査で陽性の患者を見つけると、看護師は他科の診察室へ行き「先生、よろしいですか。私、コーディネーターなんですけど……」と、優しい“奈良弁”で懐に入り込む。「ちょっと電子カルテ開けていただけますか?」と隣に張り付き、他科の医師が検査のオーダーを入れると「はい、ありがとうございました!」と笑顔で誘導していく。
押し付けるのではなく、共に患者を救うために巻き込んでいく。この「なんでも相談でき、遠慮なく言えるコミュニケーション」が、チームの心理的安全性を生み出している。
第二章:会議室は「廊下」。すれ違いざまの数分が患者を救う
彼らの活動で最も驚かされるのは、そのフットワークの軽さとスピード感だ。チームの合言葉は「どこまでも追います」。陽性者が見つかると連絡を取り合い、内視鏡室や病棟から「出動!」とばかりに患者のもとへ駆けつける。
彼らの課題解決の場は、かしこまった会議室だけではない。「廊下」だ。 たとえば、認知症で薬が飲めないおばあちゃんと、それに疲れ果てた夫であるおじいちゃんの事例。チームは「なんとかおじいちゃんを守りたい」と考え、看護師の顔写真をプリントして「私らが言っていることを私たちのせいにしていいからね」と伝えるアイデアを編み出した。
「ずっと15分も喋ってるわけじゃないんです。たまたま通りかかったときに『あの患者さんどうしよう』みたいな感じで言って、『これで行こう』『写真にしよう』と決まるんです」。日頃から「あの患者さん、どうなってる?」と気にかけ合っているからこそ生まれるスピード感。さらに、彼女たちの行動力を象徴するこんなエピソードがある。 ある日、日本肝臓学会に参加したチームのメンバーは、帰りの新幹線の中で「院外での啓発活動」、「B型肝炎の再活性化」や「脂肪肝」の最新情報について熱く議論を始めた。
「拾い上げてるだけじゃダメだ、早く手を入れていかなきゃ!」学会で得た知識をすぐに「うちの病院の患者さんにどう当てはめるか」に変換し、新幹線の中で“やらなきゃいけないミッション”を携帯にメモしたのだ。
「フレッシュな頭でやっていかないと、日常業務に追われて忘れてしまう。一番熱いときにやっておかないと!」彼女たちはその熱が冷めないうちに、帰ってすぐの火曜日のカンファレンスで「これをやりたい!」と提案したという。「患者さんのために、今すぐ自分たちに何ができるか」。この熱量と行動力こそが、宇陀のチームの最強の武器である。
第三章:「有志の集まり」から「正式な委員会」へ ─ 専門医の粋な配慮
どんなに熱意があっても、個人の「楽しい」という気持ちだけではいつか限界が来る。そこで、院長に就任した赤羽先生は、肝炎チームを守るための“あるとっておきの配慮”を行った。それまで有志の集まりだったチームを、病院の正式な組織である「多職種連携委員会の小委員会(肝炎対策委員会)」として位置づけたのだ。
これにより、肝Coの活動は「趣味の延長」ではなく「病院の正式な業務」となった。 毎月第2火曜日の16時から行われるカンファレンスも、業務時間内の公式な会議として認められる。さらに、活動内容が院内の幹部が集まる会議に報告されるようになり、院長、看護部長、事務局長といった上層部全体が活動の意義を理解し、後押しする環境が整った。現場のスタッフが楽しく働きやすいように、専門医自らが病院の組織図さえも動かし、活動を“システム”として埋め込んだのだ。このトップの理解と配慮こそが、宇陀市立病院の肝炎チームが孤立せずに活動を継続できている最大の理由である。
第四章:お揃いの戦闘服とファミリー感 ─ 「楽しむこと」が最大の原動力
「まるで、お母ちゃんと娘たちが動くみたいなファミリー感です」。 スタッフの一人がそう表現するように、チームの根底にあるのは「仲の良さ」だ。それは休診日に行われる「病院祭」の光景に象徴されている。多くのスタッフが休みを削ってボランティアで参加するこの日、彼らが身にまとうのは、自費で作ったというお揃いの「戦闘服と呼ぶチームTシャツ」だ。胸にロゴが入り「どこまでも追いかけます」という思いが込められたこのTシャツを着て、みんなで笑い合いながら院内をウロウロする。
ブースを訪れたおじいちゃんやおばあちゃんたちと一緒に「なら肝体操」をして、笑顔で対話する。 「毎日、なら肝体操やってるよ!」、「私、脂肪肝って言われたんだけど、どうしたらいいの?話を聞きたくて待ってたんよ」患者さんから直接そんな言葉をもらい、頼りにされていると実感する。診療報酬がつかない活動でも、仲間と笑い合いながら、患者さんの生の声に触れることができる。それはモチベーションの劇的な向上につながる。チームの笑顔と活気は、こうした温かい関わりの中から湧き上がっているのだ。
「1人ぼっち」で悩む全国の肝Coへ
最初は、診察室の「ゴミ収集」に来た看護師をスカウトした偶然から始まった。「診療報酬につながらないから」、「病院の理解がないから」と諦めるのは簡単だ。しかし宇陀の肝炎チームは「1人ぼっちなら、まずは身近な仲良しから増やせばいい」と語る。
身近な仲間を巻き込み、医師を「推し」として頼り、廊下で立ち話し、新幹線で熱く語り合い、お揃いのTシャツを着て地域の人と笑い合う。 診療報酬という目に見える数字がなくても、「目の前の患者さんのために」という強い思いと「活動を心から楽しむ」最高の仲間がいれば、肝炎医療コーディネーターが輝ける環境は自分たちで創り出すことができる。
宇陀市立病院の笑顔あふれる軌跡は、全国で悩む肝Coたちを照らす、力強い希望の光となっている。




